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				高橋堅さん設計の「弦巻の住宅」のオープンハウスに行きました.
				
 不定形な敷地の形状にあわせたように,いびつな7角形のフラットルーフと
 スラブが架かり,これを支える壁が様々な角度でばらまかれることで,
 住宅の中に不思議な場所性が生まれています.
 
 建築的な言語としては,スラブと壁だけしか用いられていない,
 大変ピュアな構成ですが,これが現実的な条件に対峙した結果として,
 不均質に拡がっていく現代的な空間性が獲得されています.
 いうまでもなく,この住宅は,モダニズムの建築におけるある種の
 理念的な空間性,例えば,ミースのバルセロナパビリオンに用いられた
 空間的文法に対する批評性を帯びています.
 
 そしてこの住宅は,ディテールの考え方もとても批評的であるように思えます.
 
 先に述べたとおり,ここで用いられている建築的言語はスラブと壁だけで,
 壁がないところが,結果として部屋同士を結ぶ開口となっています.
 空間の拡がりを担保するために,天井と床の仕上げは連続していて,
 開口の額縁は左右の2辺だけに設けられていますが,
 プラスターボードが塗装された白い壁面に設けられた廻り縁と幅木も,
 開口の額縁と同じチリ寸法でつくられているため,通常あるはずの開口には
 額縁がなく,逆に白い壁が額縁で縁取られているような錯覚を覚えます.
 
 これはつまり,ピュアな空間の構成方法が,飾られた,しかし空白のままの
 白い壁として展開されることによって,ピュアネス,あるいは建築的言語の欠落と
 隣り合わせの退屈さ,不自由さを,逆説的に表現しているのだと解釈できます.
 
 キャロルの「鏡の国のアリス」の中に,
 「道に見える人は皆無ですわ.」(アリス)
 「わしも,そのくらい目がよければいいのだが!」「皆無が見えるなんて!」(白の王様)
 というやり取りが出てきますが1),この住宅にはそんな種類の面白さがあります.
 
				
 1) Carroll, Lewis(原著),Tenniel, John(挿絵),安井泉(訳):
 鏡の国のアリス,株式会社 新書館,2005年12月
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