Rue Franklin Apartments

Oct. 22, 2008

パリのシャイヨー宮の近く,エッフェル塔から見て左側の翼のすぐ裏に,
「フランクリン街のアパート」はあります.オーギュスト・ペレの設計により,
1903年に建設された,最初の鉄筋コンクリート造の建物として有名です.
建築史の教科書には必ず載っている建物なので,近くまで来たついでに
立ち寄ってみることにしました.

鉄筋コンクリートの登場は,明らかに20世紀の建築を変えましたが,
しかしフランクリン街のアパートは,必ずしもその特性が十分活かされた
設計になってはいません.
光をより多く取り込むため,壁面を凹状に引っ込めたデザインは独創的ですが,
むしろ見つけるのに苦労するような,控えめな外観をしています.
ところが近づいてみると,外壁にはアールヌーボー調に,植物をあしらった
タイルが貼られていて,鉄筋コンクリートの建物にしては装飾的なのが,
かえって意外に感じられます.
コルビュジェのドミノシステムを予見するかのように,フレーム状に装飾のない
タイルも貼られているのですが,所詮はタイルを貼り分けているだけなので,
構造システムを表したデザインだと素直に信じることもできません.
むしろ,フレーム構造を偽装した装飾のように思えてしまいます.

そんなことを思いながら,しばらく外観を眺めていたのですが,
一見シンメトリーなファサードの向かって左側に,間口1mほどの
細長いボリュームが付属していることに気付きました.

最初は,これがフランクリン街のアパートの一部かも判別つかなかったのですが,
よくよく見ると,最上階の軒がつながっているので,建物の一部だとわかります.
そしてこのボリュームには,天井まである縦長のガラス窓が嵌っていますが,
腰壁もガラスブロックのような,光を透過する素材でできています.

このことに気付いた瞬間,僕は全ての事情を了解しました.

想像するに,1903年のパリで,建物に装飾を施すことは,
ほとんど抗えないことだったのではないでしょうか.
しかしペレは,石造りの装飾に溢れたパリの圧倒的な歴史の重みや,
保守的なクライアントの要求と格闘しつつも,未来の建築の姿を,
この小さなボリュームで指し示そうとしたのではないでしょうか.
そこに描かれているのは,最小限の構造に支えられた,
透明な建築のあり方です.

そして何よりも,一人の建築家の格闘が,人種も言語も文化も違う,
100年後に生きる人間に伝わったという事実に,何か建築の大きな
開放性のようなものを感じています.